2010年10月27日水曜日

動けば変わる。

その工事の計画を知ったのは一昨年のこと。
「弟子屈の街中を流れる釧路川を、100年に一度の洪水に備えて2メートル掘削する」
大工事の計画だった。

弟子屈は水のまち。
大きな屈斜路湖があり、美しい摩周湖がある。
川湯温泉や摩周温泉、和琴温泉、数え切れないほどたくさんの温泉が湧き出ている。
美味しい水もたくさん。
わっかを支える命の水も、地下76mから自噴している地下水。
水の流れは複雑で目には見えないけれど、全ての流れはつながっているのだ、と思う。

工事計画で掘削する予定の箇所には、弟子屈(てしかが)の町名の由来ともなった岩盤(てしか)がある。この掘削をこのまま進めれば、地下の水脈に多大な影響を与えるだろうと危機感を抱いた。
そしてこのままでは大変だと動き始めてから1年以上。

町内の家々を回り、工事のことを知ってもらうためのビラを配り、
賛同者を募り、アンケートを書いてもらい、
スイスから帰国中の近自然工法の専門家・山脇さんを招いての「川づくりを学ぶ」講演会を開き…
というところまではこのブログにも書いた。
でその後どうしたかと言うと、この丸1年は何度も開発局と意見交換を行ってきた。

私たちの想いを伝え、どのような川づくりが出来るか同じ場で考える。
シンプルな方法だけど、やはり会って伝えるのが一番。

そうして動き始めて、
活動を始めた最初の頃は、私たちを「工事反対派」と思っていた人たちにも、少しずつ声が届いたように思う。

私たちは、工事に反対はしていない。
治水は大事だけれど、掘削以外の方法は本当にないのか。
地下水脈への影響が心配だ。
これらは繰り返し伝えてきたことでもある。

春。
しばらく停滞していた「弟子屈地区川づくり検討会」が久しぶりに開かれた。

この「弟子屈地区川づくり検討会」というのは、工事案を検討するために作られた会で、流域の自治会長や関係団体の長など24名の委員で構成されている。

この場で提示された開発局の「最終」案。
傍聴席の私たちにはこの案の内容は見えなかったのだけれど、後日見せて頂いたものは、以前のものとほとんど…一部変わっているけれど、ほとんど…同じ内容だった。

いろいろな意見が出されたのだけれど、会の最後に、今まで中心となって工事を推進してきた役場のM課長が立ち上がり、発言した。

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「町は今までオブザーバーという立場でしたので、
川づくりに関する意見は差し控えてきましたが、
本来この事業は21年度中に着工するものでした。
それが出来なかったと言うことで、町としても非常に残念に思っております。

私ども町としては、町民の生命財産を守るのが第一であります。
しかし、一方で昔の川に戻してほしいという要望も強くあります。
やはり、治水を確保しながら、昔の川に戻すということが要望であると思います。

また、100年に一度の洪水と言われるが、今この少子高齢化の時代ですから、
今後は中心地の将来像が大きく変わってくることも予想されます。
100年先のことははっきり言って町としても分からないです。

ぜひ計画案では議論の余地を残してほしいのです。
分かりにくいかもしれませんが、100年先のことまで考えて工事をするのではなく、
もう少し短いスパンでの結論をお願いしたいということです。
つまり、何年スパンか分かりませんが段階的に計画を作って頂きたいのです。

河床の掘削に関しても、町としてはなるべく浅くして頂きたい。
親水性に富んだ川にしてほしいと思います。

それと拡幅に関しても、開発局の言われる空き地だけでなく、
『空き家についてももっと検討』して頂きたい。
(※注:空き家が将来的に更地になる可能性、また空き家を買収して更地にする
  可能性、などを考慮してほしい)

100年スパンは読めませんから、中期的に見直しをする場をぜひ設けてください。

また、町内にはブロックの破損が22箇所あるということで、
早急に着工が必要であると思っております。
また河川沿岸の住民にとって、この工事が悲願であることも重々承知しております。

あくまで治水主眼であることは変わりはないのですが、
今後は観光資源としても活用できるような川づくりをお願いしたい。

そういったことを踏まえまして、
次回、私を含めた素人にも分かりやすい形での再図面をお願いします。

昨年、政権が変わりまして、新規事業はなかなか採択になりません。
そんな中で、開発局の皆さんには本当によくやって頂いていると、
改めて感謝を申し上げます。

今の現状では、上流、街の中、下流と、川の風景が違いすぎます。
もう少し緑を…というか、あ、町に入ったなと思う程度の風景の違いにして
頂ければと思います」
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開発局には衝撃が走り、課長の言葉を書き取る私のペンが震えた。
私たちの想いが町政に届いた瞬間だった。


この後も、開発局と何度も意見交換を行う。
開発局にもいろいろと事情はあろう。
けれど、その中でも何とか良い川を作りたいと、私たちの話に真摯に耳を傾けてくれた。

最初は、100年に一度の洪水に備えて、川底を一律に2メートル掘削するはずだった工事。
話し合いを重ねる中で、工事案は少しずつ変化していった。

そうして最終的に決まった案は、
● 100年に一度の洪水ではなく、昭和35年に起こった洪水規模に対応できる治水工事にする。
● 一律に2メートル掘るのではなく、平均1メートル程度の掘削にする。
● 川底も、川のインコースは浅く、アウトコースを深くするような変化に富んだ河床にし、場所によっては2メートル近く掘るところもあるが、全く掘らずにそのままにする箇所もある。
● 町名の由来ともなった「テッシ岩」については、なるべく残すような形で、岩を露出させて工事する。
● 工事の内容については、毎年細部の微調整をして、見直すごとに町民の意見を聞く。
● 工事は、流量の少ない冬季に行い、10年計画で整備していく。


この最終案は、
今年の8月31日、町民を対象とした「川づくり説明会」が開かれ、その場で了承された。
早ければ、この12月頃から川の工事が始まる。


今でも、地下水脈に与える影響についての懸念が完全に払拭されたわけではない。
工事の必要性についても完全に納得したわけではない。

けれど、
私たちが動いたことは無駄ではなかったと確信している。

このような大きな公共事業で、途中で見直しをすることを明言するということは、
ほとんどありえないことだと聞いた。

動けば、変わる。
それを実感した1年だった。


支え、応援してくれた全ての人に感謝をこめて。
ありがとう!

さなえ
www.wakka.biz/nidomu/



2010年10月11日月曜日

ありがとう、雌阿寒岳

その山は、阿寒の深い森を見守るようにどっしりとそびえている。

いつかは登ってみたいと思っていたのだけれど、近くにいるからといってほいほいと気軽に登れるようなものでもなく、いつかいつかと思っているうちに随分と時間が経ってしまった。

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オンネトーに映る山影も美しい、秋の雌阿寒岳。
10月7日。もう忙しさのピークは越えた10月とは言え、晴天の日を選んで登るということは無理だったので、雌阿寒岳に行く日はこの日と決めて、後はいつもの「晴天予約」でお祈りした。

だから、いいお天気!
澄んだ秋空の日に山に登れるというだけですごく幸せなことなのだけど、もう何年も摩周岳しか登ったことのない私は、山が見えてきただけで緊張して胸がドキドキしていた。

活火山であるこの山は、最初は深い苔むしたアカエゾマツの森からスタートするのだけれど、踏み固められた根っこの道を進んでいくと、やがて背の低いハイマツの続くエリアに入る。

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遠くに見えるオンネトーや、眼下に広がる深い阿寒の森。
時折、雲海がやってきては、また過ぎていく。
何て静かなんだろう。

ハイマツエリアを抜けると、大小さまざまな岩や石が続く火山岩エリア。ここまでもずっと急な登りが続いていたので、足が悲鳴を上げている。けれど歩きにくい火山岩エリアも容赦のない傾斜角度。足だけではなくて手も使いながら一歩一歩頂上を目指した。はるか上の頂上を見ると気が遠くなってしまうから、目の前の一歩に集中して、休み休み登っていく。

登り始めたのは9時過ぎだったのに、頂上に着いたらもうお昼だった。
巨大なクレーターのような火口から激しく噴気が上がっている。遠くには、初めて見る青沼の姿。
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大地に意思があるのか、私には分からない。
けれど、大地は生きていて呼吸をしている。
絶え間なく続く地球の営みには、人間の意思は反映されない。

頂上でお湯を沸かし、お昼はカップラーメン。
共に励ましあいながら登ってきた、別のパーティーのおばさま達がゆで卵を差し入れてくれた。殻をむいてラーメンと頂く。
こうして、「頂上でカップラーメンを食べる」という、この日最大の目的が達成された。

下山は早かった。
あれだけ苦労した急坂も、下るのには何の苦労もない。

遠くでホシガラスが飛んでいる。
麓の森からは、鹿たちの、風を切るような雄叫び。

これほど豊かな森が見渡す限りに広がっている山は、北海道ではどこにも無い。
そして、多分カナダやスイスの山とも違う。
どこにもない、ここだけの豊かさが広がっていた。

息を切らしながら登っている時には思いもよらなかったのだけど、
帰ってきてみると、もう一度登ってみたいと思っている私が、いた。

ありがとう、雌阿寒岳。

さなえ
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